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札幌地方裁判所 昭和54年(ワ)5059号 判決

原告

梅田純靖

ほか二名

被告

有限会社美空ハイヤー

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告ら各自に対し、金四〇〇万円および内金三六五万円に対する昭和五四年三月二一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

亡梅田千鶴(以下亡千鶴という)は、次の交通事故(以下本件交通事故という)により死亡した。

(一) 日時 昭和五四年三月二一日午後二時四〇分ころ

(二) 場所 虻田郡倶知安町南一条西二丁目梅田スポーツ店前路上(以下本件事故現場という)

(三) 加害車 普通乗用自動車(以下本件加害車という)

右運転者 被告 小松平哲蔵(以下被告小松平という)

(四) 被害者 亡千鶴(昭和六年一月二一日生)

(五) 態様 被告小松平は、本件加害車を運転して倶知安駅方面に向けて時速約四〇キロメートルで進行中、本件事故現場を横断中の亡千鶴に衝突した。

(六) 結果 右衝突のため、亡千鶴は脳挫傷の傷害を受け昭和五四年三月二一日午後四時四五分小樽第二病院で死亡した。

2  責任原因

(一) 被告有限会社美空ハイヤー(以下被告会社という)は、本件加害車を保有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、その運行によつて生じた原告らの後記損害を賠償すべき義務がある(自賠法第三条)。

(二) 被告小松平は、本件加害者を運転中前方注視義務を怠つた過失により、本件事故を惹起させたのであるから、本件事故により原告らの蒙つた損害を賠償すべき義務がある(民法七〇九条)。

3  損害

本件事故による損害は次の通りである。

(一) 亡千鶴の逸失利益 三、三九〇万二、二三六円

(1) 年齢 四八歳

(2) 職業 有限会社梅田スポーツ取締役および同社販売部長

(3) 稼働期間 満六七歳まで一九年間

(4) 年収 昭和五四年は四三〇万八、〇〇〇円の見込

(5) 生活費控除 四〇パーセント

(6) 中間利息控除 複式ホフマン方式(係数一三・一一六)

算式 四三〇八〇〇〇×〇・六×一三・一一六≒三三九〇二二三六

(二) 亡千鶴の慰謝料 一〇〇〇万円

(三) 原告梅田純靖は亡千鶴の夫であり、その余の原告は亡千鶴の子供であるから、原告らは亡千鶴の右(一)及び(二)の損害金合計四三九〇万二二三六円の損害賠償請求権を各三分の一の割合で相続した。

(四) 弁護士費用 原告らは、被告らが任意に右金員を支払わないので原告訴訟代理人らに本訴を委任し着手金三五万円を支払い、報酬として七〇万円の支払いを約した。

4  損害の填補 一九五〇万九八九四円

原告らは本件事故について自賠責保険金一九五〇万九、八九四円を受領し、これを各三分の一宛それぞれの損害に充当した。

5  よつて、原告らは各自、被告ら各自に対し前記損害のうちから一部請求として各金四〇〇万円及び弁護士費用三五万円を控除した各内金三六五万円に対する本件事故のあつた日である昭和五四年三月二一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2は認める。

2  同3のうち、(一)の事実は不知、金額の相当性は争う、(二)は争う、(三)のうち相続関係は認める、(四)のうち原告らが原告ら代理人に本訴を委任したことは認めるがその余は不知。

3  同4は認める。

三  抗弁

1  過失相殺

亡千鶴は、倶知安町南一条西二丁目先交差点において信号機による交通整理が行なわれており、横断歩道が設置されていることを知悉しながら、右横断歩道を横断せず、しかも、その信号機が歩行者に対して赤であるにも拘らず、左右の安全を確認することなく右横断歩道から約一七メートル離れた地点の道路右側に駐車中の車両の陰から突然車道上に、飛び出してきたものであるから、本件事故に対し、少くとも五割以上の過失がある。

2  弁済

被告会社は昭和五四年三月二二日、本件事故による損害賠償金の一部として、五〇万円を原告らに支払つた。

四  抗弁に対する認否

抗弁2は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1及び同2は、すべて当事者間に争いがない。

二  そこで、損害について検討する。

1  本件事故により亡千鶴が死亡したことは当事者間に争いがない。

2  亡千鶴の逸失利益

原告梅田純靖本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したと認められる甲第三号証・同第五、第六号証及び成立に争いのない乙第九号証によると、亡千鶴は、原告梅田純靖が代表取締役をしている有限会社梅田スポーツの従業員として稼勤していたこと、昭和五二年度の年収は二六〇万五〇〇〇円(給料・手当の合計一、九一五、〇〇〇円、賞与等合計六九万円)、同五三年度のそれは三〇六万二〇〇〇円(給料・手当の合計二三六万二、〇〇〇円、賞与等合計七〇万円)であつたこと、右のうち亡千鶴の毎月きまつて支給をうける給与・手当は有限会社梅田スポーツの決算期が八月であつたところから昭和五二年五三年は九月か一〇月ころ昇給し、昭和五三年一〇月からは、月額二二万六、〇〇〇円になつていたことが認められ、これによると本件事故当時の亡千鶴の年収は次のとおり金三四一万二〇〇〇円と認めるのが相当である(原告らは昭和五四年度の亡千鶴の年収は四三〇万八〇〇〇円の見込であると主張するが、前記金額を越える部分についてはこれを認めるに足りる的確な証拠がない)。

二二六〇〇〇(月額給与等)×一二+七〇〇〇〇〇(賞与等)=三四一二〇〇〇

次に成立に争いのない甲第四号証によると亡千鶴は本件事故当時満四八歳であつたことが認められるから、同人は満六七歳までの一九年間就労可能であつたと認められる。そこで生活費として年収の四割を控除し、複式ホフマン方式により中間利息を控除して亡千鶴の逸失利益の現価を求めると二六八五万一〇七五円(円未満切捨)となる。

算式 三四一二〇〇〇×〇・六×一三・一一六≒二六八五一〇七五

3  慰謝料

亡千鶴の年齢、本件事故の態様その他諸般の事情(亡千鶴の過失の点を除く)を考慮すれば、本件事故による亡千鶴に対する慰謝料額は八〇〇万円が相当であると認められる。

4  過失相殺

いずれも成立に争いがない乙第一ないし第四号証、同第七、第八号証、同第一一号証、同第一三号証、原告梅田純靖及び被告小松平哲蔵の各本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができる。すなわち本件事故現場は倶知安町南一条西二丁目先の道々倶知安停車場線(通称駅前通り、以下本件道路という)路上であり、右道路は歩車道の区別ある車道幅員一一・二メートルのアスフアルト舗装道路で本件事故当時路面は乾燥していたが、道路南側には一・四ないし一・五メートル程氷状の残雪があり、右付近は一部路面湿潤の状態にあり、最高速度四〇キロメートル毎時の制限がなされていた。本件事故現場付近は倶知安町の中心部で北側三・五メートル、南側三・一メートルの歩道をはさみ商店街が形成されており、本件道路の西方は倶知安駅に、東方は国道五号線に通じ、車両、歩行者とも通行量の多い場所で、東方約二五メートルの地点には本件道路と道々ニセコ倶知安線(歩車道の区別ある車道幅員六・五ないし六・九メートルの道路)が十字型に交差する信号機による交通整理の行われている交差点(以下本件交差点という)があり、その四方には横断歩道が設置されている。

被告小松平は、本件加害車を運転して本件道路を倶知安駅に向つて走行してきたところ本件事故現場手前の前記本件交差点の信号機の表示が赤であつたため、減速し、徐行状態で右交差点の直前まで接近していつたところ信号が青に変つたので、停止することなくそのまま加速して右交差点に進入した。被告小松平は、交差点の中程まで加速進行したとき、左前方五ないし六メートル付近に設置されている横断歩道南西の信号機の近くの歩道に子供が三、四人いるのを発見したが、同被告は過去の体験から右子供らが道路に飛び出してくるのではないかとその動静に気をとられていたため、右子供らのいたところから数メートル程進行した地点で初めて約九メートル前方に右方(北側)から左方(南側)に向い小走りで横断してきた亡千鶴が本件道路中央付近に達しているのを発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、加害車前部を亡千鶴に衝突させ、同人をボンネツトにはねあげたうえ地上に落下させた。右加害車の速度は時速約四〇キロメートルであつた。

亡千鶴は所用の為本件道路の北側にある有限会社梅田スポーツの店舗から南側の店舗に赴こうとしたのであるが、東方約一〇メートル付近には本件交差点の横断歩道があつたのにこれを利用せず、北側店舗前に駐車していた車両の後方(西側)から本件道路の横断を小走りに開始したため右横断歩道から約一七・二メートル西方の地点で前記のとおり青信号に従つて進行してきた本件加害車に衝突された。

以上の事実を認めることができ、成立に争いのない乙第九号証及び原告梅田純靖本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上によると被告小松平は進路左前方の子供らの動静に気をとられ、進路前方ないし右前方に対する注視を怠り、亡千鶴の発見が遅れたものであるから(乙第四号証によれば前記の梅田スポーツ店前の駐車々両にも拘らず、被告小松平は本件交差点内において、亡千鶴が横断を開始したとすればそれを発見し得たことが認められるし、前認定のとおり被告小松平はそもそも右前方に対する注視を怠つていたものである)、被告小松平には相当著しい前方不注視の過失があるといえるのであるが、他方亡千鶴にも約一七メートル程の付近に横断歩道が設置されていたのにこれを利用せず、しかも右横断歩道の信号が赤であつたにも拘らず幅員一一・二メートルの車道を小走りで横断をしようとした過失が認められるのであり、これを考慮すれば本件損害賠償額を算定するにあたり、亡千鶴の損害の六割を減ずるのが相当である。

5  原告梅田純靖が亡千鶴の夫であり、その余の原告が亡千鶴の子であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると右原告らのほかには亡千鶴の相続人はいないと認められるから原告らは亡千鶴の前記損害賠償請求権を各三分の一にあたる金四六四万六八一〇円を相続したものと認められる。

算式(三四八五一〇七五×〇・四)÷三=四六四六八一〇

三  損害の填補

請求原因4の事実及び抗弁2の事実はいずれも当事者間に争いがない。してみると原告らの前項の損害はいずれも填補済みであると認められる(従つて弁護士費用の請求も理由がない)。

四  以上によれば原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宗宮英俊)

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